GRL NOIS： 新欧州連邦ヴィル・ヌーヴ。
GRL NOIS： その外れ、旧欧州─氷に閉ざされた東欧連合領地。
GRL NOIS： 霊的災害によって死に絶え、打ち捨てられ、忘れ去られた小型ドーム都市の一つ、“アイゼン・ヌル”。
GRL NOIS： 要塞のように堅牢なその外壁には、幾度もの補修が重ねられた跡がある。
GRL NOIS： 傷痕の下、極寒に脅える事も無く、
GRL NOIS： 地上最強の砦としての誇りを保持している。

マリー： カツカツカツ...
マリー： 　長い廊下。
マリー： 外の豪雪を感じさせない、何処か清潔感さえ漂う、白い回廊。
マリー： アイゼン・ヌル深部。
マリー： 第八階層へと続く、長い、長い路。
マリー： 床を叩くブーツの音。
マリー： マリー・アルベールは、只管真っ直ぐな其処を、ただ歩いていた。
マリー： 　　カツカツカツカツ...
マリー： 「状況は」
GRL NOIS： ？？「はっ」

GRL NOIS： 足早に歩くマリーに合流するように、“白”の隊員がレポートを読み上げる。

GRL NOIS： ？？「今から２３時間前、シベリアの支部が壊滅したという情報が上がっています」

マリー： ヴン
マリー： 路を塞ぐシャッターが、開く。

GRL NOIS： ？？「被害状況は兵員、“青”隊員２１名が重症を負い、施設は壊滅状態であります」

マリー： 闇に閉ざされた通路を、一斉に点灯した灯りが照らす。

マリー： 「──要因は？」
GRL NOIS： ？？「それが……」

GRL NOIS： これは全兵員の１割強に当たる人数であり、と続けた所でマリーの質問。
GRL NOIS： その質問になぜか口ごもり、答えを濁す。
マリー： シベリア支部。新設の支部ではあるが、それだけに装備は整っていた。
マリー： 新たな橋頭堡となるべき場所。

マリー： 「──どうした。報告を続けろ」

マリー： 痛い。
マリー： 戦略的にも。
マリー： 組織としても。

GRL NOIS： ？？「イエス。マム」

GRL NOIS： その様子を見かねたかのように、もう１人の“白”が報告を引き継ぐ。

GRL NOIS： ？？「原因は、“同士討ちによるもの”と断定されています」

マリー： カツ...
マリー： 足が停まった。
マリー： 白い光に照らされて、ブロンドの髪が静かに流れる。

マリー： 肩越しに振り返った真紅の瞳が、“白”を射抜いた。

マリー： 「──もう一度報告を行え」
GRL NOIS： ？？「イエス。マム」
GRL NOIS： ？？「シベリア支部が壊滅的な打撃を受けました。重傷者２１名。待機中だった“青”舞台は全滅。原因は“同士討ち”によるものと断定されています」

マリー： 次々とシャッターが開いていく。
マリー： 白い光の回廊が続く中、其処を歩くべき者は──其処に、背を向けて立ち止まったまま。

マリー： 「………続けて、私見による報告を行え。」
GRL NOIS： ？？「イエス。マム」
マリー： 「それは、“在り得た”事態か？」
マリー： 「私の目が届かないところ全てを、お前の脳と口を使って私に告げろ」
GRL NOIS： ？？「在り得ぬ事態であります」
GRL NOIS： ？？「ですが、可能な事件であります」

GRL NOIS： 先ほど口ごもった白が言葉を続ける。
マリー： 僅かに視線を向け──“続けろ”と、促す。

GRL NOIS： ？？「重傷者２１名。これは部隊員の粗全て、に当たります」
GRL NOIS： ？？「ですが、登録されている部隊員は２２名」
GRL NOIS： ？？「最後に残った１名に関して、５分程前に発見したという報告が上がりました」
GRL NOIS： ？？「死後、２４時間を回っている、という検視結果が出ています」
マリー： 「──場所と…その隊員のパーソナル・データを」
GRL NOIS： ？？「イエス。マム」

GRL NOIS： 直ちに表示されるデータには不審な点は特に見当たらない。
GRL NOIS： 極有り触れた隊員であり、酒と女に弱いという以外は至って優秀な“青”だった。

マリー： 「さて。どういう事だろうな。ネクロマンシー。それとも、憑依術か」

マリー： ホロ・ウインドウを一つ叩いて、閉じる。

GRL NOIS： ？？「詳しい情報は現地に飛んでみませんと……」
マリー： 「──ああ。だが」

マリー： 踵を返し、再び歩き始める。

マリー： 「霊的災害の可能性は、高い。“私はそう判断する”」

マリー： ─“故に”。

マリー： 「第一班、“青”を20名。“白”5名。10分後に第三カタパルトだ。選抜は任せる」
GRL NOIS： 「はっ」「イエス。マム」



マリー： 防弾マントと、長い髪が揺れる。
マリー： 真っ直ぐに歩きながら。

マリー： 「───それと」



マリー： 　　　　　　　　　鋼鉄の砦、アイゼン・ヌル。
マリー： 　　　　　　　　　だが、こう呼ばれる事もある。
マリー： 　　　　　　　　　　　　　　“棺桶”。


マリー： 巨大なドームに、今日も放送が流れる。
マリー： 其れは、マリーの肉声。

マリー： 貴重な出撃時間を削ってでも。

マリー： それは、欠かさずに行われる。



マリー： 　　　　　　　　　─現在までの総勢、158名。
マリー： 　　　　　　　　　それらの名前を、独り残らず読み上げて。
マリー： 　　　　　　　　　最後に、“昨日”死んだ隊員の名を、付け足した。



マリー： 　　　　　　　　　　　　　『──第一班、“青の藍”、ユーリィ・ブラック。以上158名の冥福を祈り』
マリー： 　　　　　　　　　　　　　『彼らの墓標に、鉛と鋼の墓標を捧ぐ』


マリー： 「───往くぞ。」

マリー： 待機させていた“白”に声を掛け、巨大なトランクを掴んで歩き出す。
マリー： ゆっくりと開いていくアイゼン・ヌルの外装。
マリー： 吹雪が吹き込む中、エンジン音が高らかに鳴る。

マリー： 「──出撃」







GRL NOIS： シーンエンド



GRL NOIS： −−−−−−−−−−−−−中断−−−−−−−−−−−−−−−−

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