トーキョーN◎VA 短編SS
YさんとYくんとYさん
/**** Kution(注意) ****/
このSSは、<<難攻不落>>っ!!!で公開されているリプレイ"Heartless Judgment"の後日談的な内容になっています。
あらかじめ、こちらの方を読まないと内容についていけないと思われます。
先に"Heartless Judgment"を読まれるよう、お願いいたします。
1.悪魔が来りて飯を炊く
ドンッ ドンッ
「さあ出来たよ。食いな!」
一体何が嬉しいのかまったく分からないが、"BlazeEye"嶋本由佳は機嫌良くテーブルに置いた"モノ"を勧めてきた。
「・・・・・・。」
「いや〜、久しぶりに作ったけど、どうにかなるもんだねえ。」
彼女的に、作った"モノ"にかなりの手応えを感じているのだろう。顔には満面の笑みを浮かべ、ハンドルの由来となったBlazeEye・・・レインボーアイリスによってもたらされる揺らめく炎の目・・・も、ずいぶんと穏やかだ。
しかし山科はそんな彼女に気付く事無く、テーブルに置かれた"モノ"を無言で凝視していた。
テーブルに置かれた"モノ"は茶碗一つと深皿一つ。
茶碗には赤飯の様に見えるあずき色をしたご飯が、深皿には黒い・・・恐らく豚肉の肩部分を何かで煮込んだのであろう"モノ"が入っていた。
豪快な事に豚肉はブロック体だ。脇には長大なナイフが置かれている。
これで切って食えと言う事だろう。
しかし今の山科にとって重要な事はそんな事ではない。
由佳が台所で料理をしている間漂ってきた匂い、そしてこの二品から・・・ほこほこと湯気と共に上ってくる香り・・・。
山科は額から汗を垂らしながら、間違っていて欲しいと願いながら自らの推理を口にした。
「まさかとは思うが・・・・・・水の替わりにコーラを使ったのか・・・?」
「よく分かったねえ。あたしの得意料理、コーラご飯と豚肉のコーラ煮さ♪冷めないうちに食いなよ。」
「・・・・・・。」
場に海よりも深い沈黙が落ちた。
"BlazeEye"嶋本由佳。
トリガーハッピーで姉御肌な彼女だが、小さな親切大きなお世話とはこういう事を言うんだなとつくづく思う山科だった。
(夜炎、こんな時に限ってなんで居やがらねー・・・。)
山科は自分以外犠牲者がいない事を心底呪った。
2.ストリートの散歩人
「・・・?」
声が聞こえた気がして"暇つぶしの殺人者" 夜炎はふと顔を上げた。
「よそ見してる場合かよっ!!お前を殺して俺は名を上げるううぅぅぅぅっっっ!!!!」
そんな彼女に向かって、相対していた男が裂帛の気合と共に刃が振り下ろす。
しかし夜炎は軽く身体を動かして刃を避けると、村雨で男を軽く薙いだ。
「がっ・・・。」
あまりに無造作な攻撃だったが、男はその一撃で血を吐き絶命した。
夜炎は何事も無かったかのように、SPOONのポケットに刃を収めた村雨をしまった。
「・・・暇・・・。お腹すいた・・・。」
そのまま夜炎は、悠然と夜のストリートを歩き去る。
目的地は山科の事務所。・・・彼女はまだこれから遭遇する自らの不運に気付いていない。
いや、気付ける訳が無いのだが。
3.想いは廻る
「こうやって料理すると昔を思い出すよ。」
由佳は目の前で料理をつつく山科を見ながら、遠い目で呟くように言った。
山科の顔色は、青を通り越して白くなりつつあった。
豚肉のコーラ煮はまあ食べられる"モノ"・・・というか、美味かった。問題はコーラご飯だ。
まさに腰の砕ける味・・・いや、魂が砕け散ると言うべきか。
甘党で知られる山科だったが、この食感にこの甘さは人間の食べる物ではないという結論を出すに至った。
お陰でまったく箸が進まない。
「あたしにもストリート時代があってねえ・・・。あの頃は水が貴重品だったんだ。」
「・・・だろうな。」
唇を震わせながら、山科は相槌を打つ。
「生きる事を優先してるから、料理に水を使うなんてとんでもない事だったよ。しょうがないから食えそうな物を、叩き壊した自販機からかっぱらった清涼飲料水で煮て食ってたもんさ。」
「そ・・・そうか。」
「でも、食えるだけマシだったのさ。飢え死にするよりはずっと・・・ね。だからかねえ、いまだに水を大切にする癖が残ってるみたいだ。・・・はっ、まったく笑い話さ。」
「・・・そんな物を食わされる俺はえらい迷惑なんだが。」
「・・・まずいっていうのかい!?」
由佳のBlazeEyeが、激しさを増す。
「そういう台詞は味見してから言え。ハッキリ言おう。こいつは食えたもんじゃねー。」
2人はしばし、睨み合った。
「・・・言ってくれるじゃないか、偽善探偵・・・。そういえば、あんたに言いたい事があるんだったよ・・・。」
「くっくっく・・・。奇遇だな、俺もだ・・・。」
2秒後、食事そっちのけで激しい精神戦が始まった。
4.ペテン師と被害者
「・・・・・・・・・やれやれだ、まったく・・・・・・。まあ、食事の件が有耶無耶になったのは狙い通りだが・・・。」
事務所のソファーでは疲れきった表情の山科がもたれ掛かっている。
山科と由佳の戦いは、山科のネクタイの結び目からトリガーハッピーな彼女の1月の弾薬代にいたるまで、実に36品目108種類に対する壮絶な舌戦となった。
しかし最終的には何事にも動じない山科に軍配が上がり、敗者となった由佳はドアを蹴り破って事務所を出ていった。
今ごろどこかで闘志を燃やしながら八つ当たりなどをしているかもしれない。
しかし次に会った時はいつものように機嫌良く接する事だろう。
こういう口論も彼らのコミュニケーションの一つなのだから。
そう言えば、山科の表情もどことなく満足げに見えない事も無い。
「さてと・・・、後はあの毒物をどう処分するかだが。・・・夜炎でも来ねーかねー。」
「・・・・・・呼んだ・・・?」
「・・・・・・・・・。はあ・・・。どこから入ってきた、夜炎。」
自分の呟きに返事が返ってきた事に動じる事無く、山科はため息と共に言葉を吐き出した。
「・・・入り口・・・。・・・ドアがなかったから入りやすかった・・・。」
「・・・・・・・・・はあ・・・そりゃあ入りやすいだろうよ・・・。」
"暇つぶしの殺人者"夜炎。
いい加減長い付き合いになりつつある山科にも、未だに彼女の天然さ溢れる性格を掴み切れていないが、今日は疲れているのでちょっと勘弁して欲しいなと思う今日この頃だった
「まあいい。ちょうどいい所に来たな、夜炎。」
「?」
いつになく自分を歓迎している様子の山科に、夜炎は不思議そうな表情を浮かべる。
「夜炎、お前嫌いな物はあるか?」
「・・・ない・・・。」
「本当か?本当に一つもねーのか?」
「・・・私は山科と違う・・・。・・・嘘はつかない。」
場に一瞬沈黙が落ちたが、山科は顔色を変える事無く言葉を続けた。
「そーか、ならちょうどいい。好き嫌いのない奴に是非食わせたい物があるんだ。持ってきてやるからちょっと待ってろ。」
策にはまった夜炎に向けて、山科は心の中でチェシャ猫の笑みを浮かべた。
5.恐ろしき後日談
カタカタカタ カタカタカタカタ カタカタカタカタ
夜炎に『嫌いな食べ物はない。』と言えなくしてやってから何日か過ぎた。
既にあの悪夢のような出来事の痕跡はどこにもない。
ドアの修理も問題無く終り、いつもの日常が戻って来ていた。
♪〜〜♪〜〜
と、DAKが来客を告げた。
「・・・ちっ、誰だよまったく・・・。アクセス、誰だ?」
気持ち良く仕事をしていた所に邪魔が入り、山科は苛立たしげにDAKに問い掛ける。
その視線はタップを見たままだ。
「認証中・・・認証終了。来訪者は嶋本由佳。」
「ああ、由佳か。入れてやれ。」
「了解しました。」
ドアの開く音がしてすぐに由佳が事務所に入ってきた。
「どうした、また何か厄介事か?」
「いやいや、こないだは悪い事したと思ってさ。お詫びでもしようかと思ってね。」
「ほーお。そいつはまた殊勝な・・・!?」
タップから顔を上げた山科の身体が、凍りついたように動きを止めた。
彼の視線は、由佳の右手で固定されている。
彼女の右手にある物。それは食品と・・・サイダーのペットボトルが入った袋・・・。
「今度こそ美味いと言わせて見せるよ♪」
「そんな事に闘志を燃やすなあああああっっっっ!!!!!!」
アサクサに、山科の絶叫が響き渡った。
YさんとYくんとYさん 終
あとがき
どうも。しばらくのご無沙汰でした、kigyouです。
ようやく"Heartless Judgment"のセッション中にお約束したSSが仕上がりましたのでお送りします。
リクエスト内容は、"致命的な欠点が存在する由佳さんの料理の腕前"と言う事でしたので、『料理に水以外を使う。』としてみました。
候補は色々あったんですが(作る料理がすべて××になるとか、包丁を使わずに料理するとか、料理の材料を自分の手で調達しようとするとか)、これならまず他と被る事はないだろうなあと・・・まあ、当たり前といえば当たり前なんですが(笑)。
よろしければお納めください。それでは。
あ、ちなみに僕はコーラご飯とか試した事無いです(笑)。
Write kigyou
Writing end 2002/02/06
こー来たか。(w
リプレイのラストシーンで、飯を作りに行くと言ったゆかぽんと山科さんが
あの後どうなったか、と言うセッション後の雑談からリクエストさせていただきました。
条件としては「何かしら致命的な欠陥がある料理の腕前」・・・山科さんが酷い目にあうのはデフォ。(w
私はコーラは好きですが、こんな喰い方はしたくないですね。(w
山科さんと巻き添えの夜炎さんはご苦労様でした。(−人−)チーン・ポクポク
最後に、2月中に頂いていたのに、UPが遅れて申し訳ありませんでした。
懲りずにぜひまた書いてください。(オィ)
ありがとうございました〜。